タイ語を修得中の女子大生と友達になった話(最終回)

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タイという異国の地で、これまたタイとは異国の中国から来た留学生と知り合うことができた私は、彼女たちと友情を深めるべく中華料理を囲むこととなりました。私が帰国した後も、彼女たちとは定期的に連絡を取り合ってはいたのですが、そこには中国から来た留学生ならではの結末が待ち構えていたのでした。

真面目にタイ語を学ぶ中国人留学生たち。躾が行き届いている良家の子女とみた

彼女たちのチョイスにより、私たちはある中華料理屋に入店した。駅からも少し距離があり、完全なローカル地帯にあるその店で日本旅行者の姿を見つけることは難しいだろう。

メニューから料理を選ぶ。私はもとからたくさん食べる方ではないが、彼女たちもまた小食のようであり、あまり多くをオーダーしない。しかしせっかくの席だから、私はビールをオーダーしようと思い、彼女たちに飲むでしょ?と尋ねると

 
「私たちは飲まないわ。だって学生だし、明日は授業があるから」

 
「でも、トラ次郎さんは遠慮なくビールを楽しんでね」

 
 
と学業が本分である学生としての立場を強調し、アルコールを飲むことを固辞。私一人だけが酔っぱらうことは避けたいので、各々ソフトドリンクを注文したのだが、まず日本の学生には見られない優等生的発言に、私の口から思わず感嘆の吐息が洩れたのであった。なぜなら、彼女たちは幼少の頃から良家の子女として、両親に丁寧に育てられてきたことが窺えたためである。それは、彼女たちの言葉遣いや所作の端々に見て取ることができた。

 
 
チップスちゃんの学友は、オレンジちゃんにライトちゃん。3人の仲良しコンビ
ここでチップスちゃんの連れてきた学友を簡単に紹介すると、真っ白な肌の白さが印象的なオレンジちゃんと、森の小動物のような愛くるしさをもつライトちゃんであった。中国人の女の子の名前といえば、テンテンだのチュンリーだのといった名前をどうしてもイメージしてしまう。

 
だが、ここタイにおいては、誰もがみなニックネームを持っている。なぜならタイ人の本名は、やたらと長かったり難解だったりするので、当のタイ人でも憶えるのがとても面倒くさいのだ。したがって、皆それなりのニックネームを持っているのである。

 
私もかつてタイ人の熟女たちから、

 
「貴方のニックネームは、そうねぇ・・・、貴方は◯◯だから、◯◯にするわね」

 
とニックネームを拝領したことがあったっけ。彼女たちもまた、タイの社会に馴染まんとして、自身がイメージする「チップス」、「オレンジ」、そして「ライト」というニックネームを付けたのであろう。

 
 
3人ともが中国の南部の某市からバンコクへやって来て、タイ語を修得しているのだという。大学が用意した寄宿舎で生活し、日々猛勉強中であるとのこと。その甲斐あってか、彼女たちのタイ語能力も日増しに力をつけ、今では英語よりも得意であるようにも見えた。

 
 
「ところで君たちは、いまボーイフレンドはいるのかな?」

 
 
この私からの質問に対しても、

 
 
「いま、私たちがすべきことは勉強なの。だから、ボーイフレンドは不要なの」

 
 
との立派なご回答。異国の大学に留学中という目的意識をしっかり持っているので、その言葉も力強く信頼性に満ちていた。

 
 
日本人男性の目を奪ってやまないタイ女子大生の制服姿。翌日、キャンパスライフの一コマを送ってもらう
彼女たちにタイでの日常生活や母国中国での生活をヒアリングしたが、改めて彼女たちからは、育ちの良さを感じた。日本のバラエティー番組にしばしば登場する、思わず眉をひそめたくなるような日本の若者とは一線を画していたし、私の抱いていた中国人の印象を良い意味で破壊してくれた。

 
 
楽しい時間は瞬く間に過ぎた。明日の授業の準備もあるからとのことで、今宵の宴は盛大の内に幕を閉じたのだが、会計時、なんと今日の勘定を友好の証として彼女たちが持つというのである。
 
 
冗談じゃない、親切にしてくれた学生の彼女たちにそんなことをさせてはならない。ここは私が支払うと言うも彼女たちもなかなか折れない。だが、最後は半ば強引に私が支払うと、彼女たちはきちんとお礼を述べてくれた。日本では、御馳走されるのが当たり前のような態度を見せる手合いとの食事を何度か経験したが、ここでも彼女たちは礼儀正しかった。

 
 
「楽しかったわ。またお会いしましょうね」

 
「いつか、中国にも遊びに来てください」

 
 
実に気持ちの良い女学生である。今夜、私たちは、日中友好の小さな小さな架け橋を確かに築いたのである。別れ際、私は

 
 
「あなた達の大学での一コマを見せてもらえるかな?」

 

 
こうお願いすると、彼女たちは二つ返事でOKしてくれた。すると翌日、ホットなキャンパスライフの一コマが私のスマホに送られてきたのであった。

 
 
ポーズを決める仲良し3人組。ロングスカートの2人に対して、オレンジちゃんは膝上10センチほどのミニスタイルである。この辺り、制服のアレンジは自由に許されているようだ。

 
 
勉強第一で頑張り、充実した大学生活を送る。この学生の鑑のような彼女たちに別れを告げて日本に戻ってからも、彼女たちから時折、大学でのイベントを撮影した動画が「Hi! Friend!!」と送られてきた。なかなかに微笑ましい内容であった。

 
 
だが、しかし・・・

 
 
事態は急展開を迎える。彼女たちが中国人留学生であるため、我々には避けて通ることができない障壁が、実は待ち構えていたのであった。

 
 
中国への帰国。そして、我々の友情の前に大きく立ちはだかる中国政府の通信制限が、そこに存在していた
彼女たちとの宴があった次の訪タイ時、私はもちろん彼女たちにコンタクトを取ったのであるが、試験か何かがあるとのことで、残念なことに再会は果たせなかった。
 
 
 

その後、連絡が全くつかなくなる時期があり、どうしたのかと心配していると、ようやくオレンジちゃんから

 
 
「私たちは、タイでの留学を終え、すでに帰国しました」

 
「中国では、LINEでの通信が自由に行えないのです」

 
「私たちは、LINEの代わりにWeChatを使っています」

 
 
との、驚きの連絡が入ったのである。つまり、中国本土においては、無料通信アプリのLINEは中国政府の管理下に置かれ、厳しく制限されていたのである。その理由は、中国政府が民主化を恐れてのことであるとも聞く。さすがに中国である。通信の自由が保障されていない。

 
 
その代わりに、通信内容が政府に筒抜けの「WeChat」が中国では広く利用されているというのだ。

 
 
「Wechatをインストールしたらどうですか?」

 
との提案もあったのだが、中国当局に目を付けられては堪ったものではない。とても怖くて、インストールなぞできやしない。

 
 
オレンジちゃんは、何らかのIT技術を駆使し、私にラインでそう連絡してきたのであった。お国柄とはいえ、この時代にこのような規制が掛けられていることに私は軽い衝撃を受けた。それに引き換え、日本はなんと平和なことであろう。

このようにして、私と中国人大学生たちとの友情は、風前の灯火となってしまったのであった。

 
 
「またいつか、タイでお会いしましょう」

 
我々のフレンドシップが消え去ることなく、彼女のその言葉が現実に訪れることを、心のどこかに期待している。

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